目的地到着、診察秒殺、手術日決定

7月12日、予定通り今回の旅の目的地である Dr. Hansen's Spiritual Center in Brazil (CASA DA FRANTERNIDADE "SAO FRANCISCO DE ASSIS")*1 に着いた。目的は心霊治療を体験するためである。


「心霊治療、しかもブラジルで」と聞くとどんなものをイメージするだろうか? アマゾンの奥地に昔からの土着の宗教を信仰するシャーマンがいて、そこに行くと何やら儀式をやってくれて、そこで幻覚作用のある薬を飲まされてトランス状態に入り、シャーマンと一緒に朝まで踊るとその間に霊が降りてきて病気を治してくれる……といったものをイメージする人もいるのではないだろうか。

ここにはそういったイメージのものは全くない。

ブラジルのミナス・ジェライス州のウベランヂアという街は空港があるぐらいの大きな街だし、サンパウロからバスで9時間、ブラジリアまでも6時間という「奥地」とは呼べない場所にある。

今僕は遠方から来た患者用の宿泊施設にお世話になっているが、シャワー、トイレ付きの個室を与えられ、建物は掃除がゆきとどいているし、はっきりいって僕が今までに泊まってきた安宿よりもはるかに快適である。(安宿は安宿で多少こぎたなくても居心地がよくてついつい長居してしまう宿もあるんだけど、ここでは置いておく。)

「心霊治療」という言葉から何やらおどろおどろしいものを想像するのは無理もないと思うので別の言い方をすると、ここはスピリチュアルなヒーリングを行うセンターなのである。

つまり、ここはスピリチュアルなドクターがいて、医者に見放された人や、医者に行くお金がない人に対し、というか身体や心に問題を抱えてやってくる全ての人に対し、無償で治療を行う場所なのである。そして、その治療を助けるために何人ものボランティアがここで働いている。

宗教的なものとしては、キリスト教のとある一派の信仰があるようで、診療の前に聖書を読んでお祈りをしたりするが、その間おしゃべりをする人がいたり、必ずしも敬虔なクリスチャンだけが集まるというふうには見えないし、僕のようなクリスチャンじゃない人でも受け入れてくれるようだ。

ここの人はスタッフも患者も皆陽気で、日本の病院、特に入院患者がいる病棟のような、ある種の陰気な雰囲気は全くない。それはブラジルという国柄によるものからか、ここにくればたいていの怪我や病気は治してもらえるという安堵感からくるものかはわからない。


僕が着いたのが木曜日で、次の金曜日がDr.ハンセンの週一回の診療日であった。

Dr.ハンセンの診療は倉庫のような、体育館のような大きな建物で行われる。建物の前方にはいくつかのベッドが並べられ、Dr.ハンセンが手術や治療を行う場所となる。その他の場所にはイスが並べられ、集まった患者がDr.ハンセンの手術を見ながら自分の診察を待つようになっている。

イスの数を数えてみたら軽く300以上はあった。当日はそのイスが全て患者で埋まり、さらに建物の外にも中に入れなかった人の列ができる。Dr.ハンセンはそれら全ての人(推定500人ぐらい)を全て1日で診るのだ。

午後2時、会場が開場したので中に入って席についた。中ではボランティアのスタッフがせわしなく動いている。最初に手術を受ける5人程の患者が前方のベッドに寝かされる。その間、少し皆で立ってお祈りをした。そしてまたしばらく待ち、午後4時頃、Dr.ハンセンが現れ、一同拍手で彼を迎えた。


ここでおさらいをしておくと、Dr.ハンセンは今の時代に生まれてきていない霊である。彼は今の時代に肉体を持って生まれてきているブラジル人医師Dr.ネルソンを霊媒として、彼に降りてきて(彼の体をかりて)現れるのである。

つまり、現れたドクターは、見た目はDr.ネルソンで、中身はDr.ハンセンということになる。


彼は現れてすぐに手術を開始した。2時間ぐらいかけて10人ぐらいの患者の手術を行ったが、どの手術も患者に針を刺しているだけに見えた。用いる針は注射針のようで、刺した場所によっては血が染み出している針もあった。患者によって、背骨に沿って針を刺されたり、腰を中心に集中して刺されたりと、針を刺す場所と本数はまちまちであった。

この患者はどういう病気で、今どのような処置をしているといった説明は一切ないので、その処置の意味は全くわからなかった。

その日手術を受けた患者のうち、ただ一人だけ、目を患った患者の処置は全く違ったものであった。最初Dr.ハンセンは患者の目をまぶたの上からこするようにマッサージし、さらに眼球に直接指を触れ、こするようにマッサージをしていた。それからおもむろに人差し指を患者の目の中に突っ込んで、同様にこするような動作を始めた。人差し指の第一関節ぐらいまで、指は目の中に埋没していた。その動作をしばらく続けて、最後に目を水か目薬のようなもので流して処置は終了した。麻酔をしている様子はなかったのに、患者は全く痛がっている様子はなかった。


全ての手術が終わると集まった一般の患者の診察が始まった。ものすごいスピードで…。

Dr.ハンセンは、患者の前に立つやいなや手元の紙に処方箋をものすごい勢いで書き患者に渡し、一言二言声を掛け、一人の診察を終えていた。一人当たり1分にも満たない時間で診ていたのではないだろうか。彼の前の行列がすごい勢いで短くなっていった。

何も知らずにはたから見ていた人がいたら、それはDr.ハンセンのサイン会に見えたのではないだろうか。いや、サイン会の方がもっと一人一人に時間をかけていると思う。

そんなんで僕の順番はあっという間にまわってきた。同じくDr.ハンセンに治療をしてもらいに来ていた人で英語を話せる人がいて、その人が僕のそばに着いていてくれたので、その人にあらかじめ僕の症状、といっても腰が少し痛いってことだけ、を伝えておいたので、診察はスムーズにいった。スムーズにいったもなにも、僕は一言もDr.ハンセンと言葉を交わすことなくあっという間に終わってしまった。通訳をしてくれた人が「こちらは日本から来た人で、彼は腰が痛いそうで……」と話すと、そんな話しを聞く前からDr.ハンセンは処方箋を書き始めていて、通訳をしてくれた人との会話の中で、僕は「シルジア(手術)」と、「クアトロ・トラタメント(4回の治療)」とDr.ハンセンが言っているのをかろうじて聞き取ることができただけであった。一応iPodで会話を録音したんだけど、その録音時間は2分以下であった。

と、まあ、こうして僕はスピリチュアルな手術と、スピリチュアルな治療を受けることになった。治療日は毎週月曜日で、7月16日に手術の準備のための治療。23日に手術本番で、30日に手術の後処理(抜糸のようなもの?)。その後毎週月曜日に4回、8月6日、13日、20日、27日に治療を受けることになった。

治療日、手術日とも、僕は指定された時間に自分の部屋のベッドに寝ているだけでよくて、その間に霊がやってきて処置をするみたいだ。最後の4回の治療は別に日本で受けてもいいと言われた。

その他には、手術後の一週間は肉や脂、酸性の果物などを食べてはいけないという食事制限がある。お酒もだめ。そして手術後一週間は絶対に安静にしてなくてはならないそうだ。

実際に同様の手術を受けたことがある人(といってもここに来る人はたいてい手術を受ける)に話しを聞くと、手術中何も感じなかったという人もいれば、体を誰かに触られているのを感じたという人もいた。


さあて、どうなることやら。わくわくどきどきであ〜る。