とある旅人がプラムを買うはなし

とある国のとある街、とある果物屋の前をとある旅人が通りかかりました。旅人は店に積んであったプラムを眺めていました。この国のレストランで注文できる料理にはほとんど野菜が含まれていなかったので、旅人は野菜か果物を食べたいと思っていたのです。すぐに果物屋の主人がとんできて旅人に声をかけました。「プラムを試食してみろ。マンゴーもパパイヤもあるぞ」 言い終わらないうちに果物屋の主人は試食用のプラムを選び出しました。「”カモを見つけた”という顔をしているな」と旅人は思い、「試食はただか?」と果物屋の主人にききました。果物屋の主人は「もちろんただだ」と答えました。それをきいた旅人は差し出されたプラムを食べてみました。酸っぱくて甘いおいしいプラムでした。果物屋の主人は試食用にとびっきりのプラムを選んだようでした。旅人はプラムが何個かずつに積んである山の一つを指差し「いくら?」とききました。「60シリングだ」と果物屋の主人は言いました。「高いな」と旅人は思いました。旅人はプラムの本当の値段を知りませんでした。それでも明らかに高いと旅人は思いました。「高い」と一言だけ言って旅人は歩き出しました。「じゃあいくらなら買うんだ?」と果物屋の主人はいいましたが旅人は無視して歩き続けました。「40でいい」と果物屋の主人がいいました。旅人は「やっぱりな」と思いましたが無視して歩き続けました。「20だ」と果物屋の主人がだいぶ離れた旅人に向かって叫びましたが旅人は歩みを止めませんでした。値段がそれ以下に下がらなかったことを旅人はちゃんと背中できいていました。

しばらく行くとすぐに別の果物屋がありました。旅人は先ほどと同じぐらいの大きさのプラムの山を指差し果物屋の主人に「いくら?」とききました。「20シリングだ」と果物屋の主人は答えました。先ほどの果物屋の主人が最後に叫んだ値段と同じでした。最初に60と言ってそれで買わないとわかると値段を下げた20シリングと、最初から言った20シリング。同じ20シリングなら最初から20シリングといった正直者の果物売りからプラムを買おう。そう旅人は思い、そこでプラムを買いました。不正直者の果物売りがくやしがっている姿を想像しながら旅人はわざとプラムが入った袋を大きく振りながら宿に帰りました。

宿に帰った旅人は早速プラムを食べようと袋から取りだしました。するとどうでしょう、傷のついたプラムや半分腐りかけたプラムが何個か混じっています。「あれれれれ?」と旅人は思いました。山の上の方にあったプラムは形もよく傷のないものばかりでしたが、傷があったり腐りかけているプラムが山の下の方に隠されていたのです。「ふっ、気が抜けない街だ」と旅人はつぶやきました。なぜかそうつぶやいた旅人の顔は笑っていました。