人間スピーカー

持ってきてればよかったかなぁと思うもののひとつにスピーカーがある。別に一人でいる時はイヤホンで音楽を聴けばいいから問題ないんだけど、宿で知り合った人とかとしゃべったり、ぼーっとしたりしてる時に音楽がほしいなと思うことが多々ある。そんな時にスピーカーがあれば音楽をかけられるのになぁと思う。何度か購入のチャンスもあったんだけど、荷物が増えるのもいやだしと購入には踏み切っていない。


ある晩ホテルで一人iPodで音楽を聴きながら部屋の外に出て、星を見たり波の音が音楽と混ざるのを聴いたりしていると、タバコを吸いに出てきた一人のモロッコ人に会った。彼はザゴラで砂漠のガイドをしているベルベル人で、休暇でエッサウィラに来ているらしい。彼は僕に日本の音楽を聴かせてくれと言った。その時ちょうど元ちとせを聴いていたので、こりゃちょうどいい、日本ぽいなと思い「ワダツミの木」を聴かせた。

しばらくして「どう?」ときくと彼は「すごくいい」と言い、その言葉に嘘がないことを証明するためにか体でリズムを取り、歌に合わせて鼻唄を歌い始めた。「ふーふーふー、ふーふーふー」と最初は鼻唄だったのがだんだん「どーこーまままー、まっふくーにー」と歌詞に近づいてきた。そして「ぐるぐるー、まわあーってー」と、あっ、言えてるっていう瞬間がきた。そうなのだ。彼らはとても耳がいいのだ。たいていのモロッコ人はフランス語を流暢に話すので、たまに彼らにフランス語を教えてもらうことがあるが、何度も何度も発音を直される。僕には区別がつかない音を彼らは区別しているのだ。

左右のイヤホンを両方彼に渡したので、僕にはiPodからの音は聴こえず、彼の鼻唄しか聴こえない。これって人間スピーカーじゃん。ちゃんと「ワダツミの木」ってわかるよ、と思った。そして、彼ののどを通して聴いた「ワダツミの木」の方が、イヤホンで直接聴く「ワダツミの木」よりも不思議と郷愁を感じさせた。モロッコ製の人間スピーカーはなかなか性能がいいようだ。


とまあ、新たな楽しみを発見したので、スピーカーの購入はまだ控えようと思う。


ハイヌミカゼ